コンピュテーショナル・ストレージの未来とは

この世界に「コンピュテーショナル・ストレージ」という概念が本格的に現れてから、5 年あまりが経過しました。言葉自体はそれ以前から存在し、2012年あるいはもっと前から見かけるようにはなっていましたが、正式に市場で受け入れられ始めたのは 2018年のことです。2018年に開催されたフラッシュ・メモリー・サミット (FMS) では、小規模なスタートアップ企業 3 社が集まり、業界のベテランたちによる会合が開かれました。この場でストレージ・ネットワーク産業協会 (SNIA) との連携による、規格標準化に向けた取り組みの開始が決定しています。[1]   こうした経緯に少し触れるところから始めたのは、今多くの人々が考える「この言葉は未来まで残るのだろうか?」という疑問に対して、この業界では何事も一夜にして起こることはないという事実を伝えたかったからです。育成、サポート、共通のフレームワークなど、標準化には時間がかかります。これはデータストレージ市場における、現在知られている多くのソリューションにも当てはまります。NVM Express (NVMe) か SCSI-over PCIe (SOP) か?

という意見の対立を思い返してみてください。それほど昔の話ではありません。 コンピュテーショナル・ストレージに影響を与える市場の変化 この前置きを念頭に置いて、本日の命題「コンピュテーショナル・ストレージに未来はあるか?」について考えていきましょう。取るに足らない話のように思えるかもしれませんが、市場が大きく変化している今、この業界の進歩に前向きな人と異論を唱える人、どちらの立場のプロフェッショナルにとっても、この問題は現実的な懸念事項となっています。なぜ「懸念」なのか?

と皆さんは思うことでしょう。確かに、Compute Express Link (CXL) やメモリー内で演算処理を実行する Compute-in-Memory といった、CIM、PIM、AIM などの頭文字で表されるさまざまな革新的ソリューションが登場しています。 1. 市場には複数のソリューションを採り入れる十分な多様性がある これらのテクノロジーは互いに競合しているのではなく、難題の解決に向けてどのポジションを担うのが最適かそれぞれが探り合っているということを、一部の人々は認識できていません。半導体の進歩を表すムーアの法則が終焉を迎えつつあると言われる一方で、ノイマン型アーキテクチャーもすでに限界を迎えています。かつては「CPU + メモリー + ストレージ」だったところに、今では本当に多くのコンピューティング環境が構築されています。

データと処理を行う従来の CPU との距離が離れているため、ストレージにコンピューティング能力を追加しなければならない必要性を示す図。

図 1. データ処理にコンピューティングのポジションを確保

スナップショットを見るだけで、NVIDIA がどれほど適時に適所を見出したかが分かるでしょう。現在のコンピューティングにおいて NVIDIA がこれほどの主要ポジション、つまり必要不可欠な GPU に位置付けられるとは予想だにしなかったことでしょう。この例は、コンピュテーショナル・ストレージはもちろん、「コンピュテーショナル」と銘打つあらゆるソリューションに継続的な機会があることを物語っています。 初めて GPU 搭載システムが登場したとき、コンピューティング・レイヤーに対する脅威とはだれも考えませんでした。結局のところ、GPU は本来グラフィック処理のための製品だったことは間違いありません。確かにコンピュートでもコンピューティングでも、どのパートナー製品なのかがすぐに分かるテクノロジー名を付けると、中には対応製品や拡張ソリューションではなくリプレースを狙った戦略と見なそうとする人もいるようですが、実際そのとおりです。 コンピュテーショナル・ストレージは SNIA のアーキテクチャー設計に準拠した、このアーキテクチャーで機能する完全な API であり、NVM Express ワーキンググループでは対応プロトコルで動く最初の正式なコマンドセットを完成させようとしています。それ自体が 5 年間の大きな成果です。基準点として、NVMe の実装には時間がかかりました。 そして本日の命題に対しては、簡単にまとめると「はい」と答えることができます。コンピュテーショナル・ストレージには、1) 現在活用できる定位置があり、2) 将来的にもその定位置は変わらず、3) ただし決して問題のないソリューションではなく、4) 今後も市場とテクノロジーの進歩とともに、よりよいエコシステムを築いていくソリューションだからです。

インフラストラクチャーに接続できるコンピュテーショナル・ストレージ・ソリューションのさまざまな事例

図 2. コンピュテーショナル・ストレージ・ソリューションの経路

コンピュテーショナル・ストレージは (生涯に二度と起こらないような規模のパンデミックの影響もあり) 進んでは止まり、たどってきた過程は確かに順風満帆ではありませんでしたが、この先も存在し、需要は継続して、またすぐに成長し始めるでしょう。2020年にこのテクノロジーの躍進を期待してはいましたが、今後 10 年の間に採用が大幅に進むと考えて間違いありません。

2. コンピュテーショナル・ストレージ・プラットフォーム コンピュテーショナル・ストレージは、ユーザーがローカルのストレージデバイスにデータを保存し、管理 / 分析 / 変更できるプラットフォームです。15 年の間に容量は 128GB から 128TB へと拡大しました。[2]これはデータ重力、つまり 1 ビットのデータを A 地点から B 地点へと移動するために必要なエネルギー量と時間に対する最適なソリューションです。この単純な事実は、既存のアーキテクチャーを削除したり、置き換えたり、実質的に変えているのではなく、データに隣接した最も必要とされる場所に付加価値の高いコンピューティング・レイヤーを構築しているだけであると証明しています。

3. データに変革を起こすストレージ ところで、「そこに置く必要があったのなら、なぜ保存する前にコンピューティングを行わないのか」という意見もあります。単純な答えは、「もちろん、 そうしましょう」です。データを処理してから保存できるのであれば、それに越したことはありません。しかしある時点で今保存したデータが別の形式で必要となると、なぜすでに保存されている場所で変換しないのか?ということになります。次のケースを例に、この考え方をさらに掘り下げてみましょう。 現実の数学的解法でデータを「作成」して「変更」した後、その履歴をページ上に文字で記録した 1 冊の本を思い浮かべてください。これらの文字は、現在保存しているデータを表しています。ある時点で別の誰かがその数学の問題を読み、解いて、その証明あるいは反証を見つけた場合…全く新しい本を作成する形で、そのデータを「修正」しなくてはなりません。データを入れ、データを取り出し、修正してから、また元の場所に戻す。ですが今の世界ならば、保存方法は洗練されているため、いくつかの手順を省くことができます。データをコンピュテーショナル・ストレージ・ドライブ (CSD) に保存し、その場で変更して、復元するという方式です。プロセスは簡略化されました。 「でも、ものすごく時間がかかるのでは?」と、皆さんは思うことでしょう。もちろん「今すぐに」実行する必要がある場合には、GPU や PIM といったテクノロジーのほうが向いています。どのテクノロジーも、競合するのではなく、相互に補完しあっているのです。CXL、PIM、CSD、CIM、AIM、GPU、DPU、CPU、DRAM、HBM と、こうして名前の挙がったテクノロジーそれぞれが、(単に現状を受け入れるというよりも) 効率と有用性を積極的に検討するべきパズルのピースと言えます。Gartner が公開しているハイプサイクルで過去 2 年間にテクノロジーの評価がどのように入れ替わっているか軌跡を追うことで、これらのピースがエコシステムの中でどのように連携と進化を続けているか把握することができます。

Gartner「公式」ハイプサイクル (ストレージ分野) でのコンピュテーショナル・ストレージの評価

図 3. Gartner「公式」ハイプサイクル (ストレージ分野) でのコンピュテーショナル・ストレージの評価

狂気とは、「異なる結果を期待して同じ行動を何度も繰り返すこと」と定義されています。既存のコンピューティング・インフラストラクチャーを徹底的に調べ、難題にいつも同じ手法を繰り返すという狂気を取り払い、代わりにもっと高い価値をもたらす簡潔明瞭なソリューションに移行しなければなりません。もちろん、こうしたイノベーション・テクノロジーに根本から適応するには、システム・アーキテクチャー内の多くの部分に変革が必要です。ただし業界としては、必ずどこかから改革に着手し、その変化を推進していくことが求められます。 コンピュテーショナル・ストレージの進化を推進するソリダイム ソリダイムは今、その変革を推進しています。硬い「SSD ケース」のような凝り固まった既成概念に囚われず、現在市場で手に入るソリューションの補完と改良につながるテクノロジーを探究し、新たな市場、最新のソリューション、価値の向上、そして世界中どこでも効果的にツールを活用できる機会を生み出しています。

この記事を読んで興味を持っていただけた方は、ぜひ Flash Memory Summit 2023 で発表した補足スライドをチェックしてください。さらに踏み込んだご意見をお待ちしております。


[1]  Online SNIA Dictionary | SNIA (Storage Networking Industry Association)

[2] https://www.pcworld.com/article/472983/evolution-of-the-solid-state-drive.html

著者紹介:

Scott Shadley は、ソリダイムの戦略プランニング担当ディレクターです。半導体とストレージ分野の製造、設計、マーケティングに 25 年以上携わってきました。Micron での経歴は 17 年間にわたり、また STEC ではスタートアップ企業の育成から買収まで重要な役割を担いました。携わった製品の収益は 3 億ドルもの市場規模にのぼり、プログラム全体の収益は過去 10 年間で 20 億ドルを超えています。 ソリダイム入社以前は NGD Systems に所属し、コンピュテーショナル・ストレージ技術の進歩に貢献しています。自称オタクであり、スタートレックやスターウォーズの熱心なファンです。子供たち (現在 2 人とも大学生) と過ごすことと、モバイルゲームを楽しんでいます。スマートフォン関連のテクノロジーを趣味とし、市場の変化に関する研究を長年にわたって続けています。またボランティア団体でも活動しており、公私を問わず多忙を極めています。