ディスクドライブの活躍場所はレガシー

長年にわたり、ITストレージ媒体は多くのイノベーションを経験してきました。この分野で働く多くの同僚と同じく、私自身のジャーニーも長きにわたっています。磁気テープから始まってハードディスクドライブ(HDD)、そしてフラッシュメモリベースのソリッドステートドライブ(SSD)へと移り変わりました。 どのストレージ媒体の技術的な属性も、究極的にはIT導入の推進に貢献します。市場でのストレージ媒体の成功にはいくつかの要因がありますが、鍵となるのは基盤となるテクノロジーと、それにアクセスする方法です。 では、ITにとって重要な、ストレージ媒体の技術的な特性をいくつか見ていきましょう。

ストレージのパフォーマンスを支える、データストレージ効率の4本の主な柱。

1. ストレージ容量

利用可能容量はデータフットプリントと一致するか、またはそれを上回る必要があります。これは純粋な物理的な容量、つまり物理容量であったり、単にデバイスがOSやストレージシステムに提示するものであったりします。圧縮やその他のデータ縮小技術により、「論理」容量が物理容量を上回ることがあります。データ保護は、媒体の障害から顧客データを保護するために冗長性が必要なことから、論理容量を減少させるといった、逆の効果をもたらすことがあります。

2. ストレージのパフォーマンス

多くの場合、導入の全体的な速度は考慮されても、ストレージのパフォーマンスにはあまり関心が払われません。大半のユースケースで、速度は通常、TTFB(Time to First Byte)(アクセス時間、レイテンシー、または応答時間とも呼ばれる)として測定されます。これは持続的なドライブスループット、またはアクティブな各アクセス間の時間の長さに相当します。ストレージの最も重要な部分である、データが永続的に保存される場合のデータ書き込みにも、同様の測定基準が存在します。

3. ストレージの電力要件

すべてのストレージには、動作するための電力が必要です。これは通常、アイドリング時と読み込み/書き込みI/Oワークロード時に測定されます。AIに使用されるコンピューティング(CPUとGPU)がデータセンターのエネルギー予算の多くを消費するため、ITはインフラストラクチャの他の部分で消費される電力を工夫する必要がありました。

4. ストレージの信頼性

ストレージに書き込まれたデータは、読み戻すことが可能でなければなりません。現在、認められている測定方法として、ビットエラー率(BER)や平均故障間隔(MTBF)などがあります。現在、HDDとSSD固有の特性には、ストレージの寿命を示す1日あたりのドライブ書き込み回数(DWPD)や合計書き込みバイト数(TBW)などがあります。

ITストレージ媒体

長年にわたり、プライマリデータセンターのストレージソリューションは多くの変遷を遂げてきました。初期のパンチカードはテープに置き換えられ、次にHDD、そして現在はSSDへと移行しています。今日の法人向けストレージ市場を変革しているのは、HDDからSSDへの移行です。

磁気テープやHDDを使った旧式のデータストレージは、SSDに置き換えられています。

テープによるストレージソリューション

データセンターストレージの時代は、主にテープによるソリューションから始まりました。テープは、初期の大型装置を使ったソリューションの登場でHDDに取って代わられました。HDDはその後、数十年にわたり、テープと並んで法人向けストレージ媒体市場を独占してきました。

興味深いことに、テープは1970年代と1980年代にほぼ消滅したと宣告されました。ところが、テープは今でも、大量のデータをアーカイブするための「コールド」または「フローズン」ストレージとして利用されています。テープは、現在も世界に残存するエクサバイト(EB)からヨタバイト(YB)のデータを必要とするクラウドやHCPショップで使用されています。 

これを理解するには、さまざまなストレージソリューションのユニークな機能を知る必要があります。まず、テープ、HDD、そしてSDDの基本を、少し従来とは異なる視点から見てみましょう。 

衰退する原因となったテープの特性には以下のようなものがあります。

  • テープアクセス方式の限界:現在出荷されているLTO9テープのスループットは、約160MB/秒です(物理容量、テープからの出力)。 
  • テープ容量の増大は困難:現在、LTO9はテープ長1km、約9000トラックで18TB(物理容量)/カートリッジをサポートしています。これはだいたい 12 Gbpi2(1平方インチあたりのギガビット数)の面密度に相当します。1
  • テープテクノロジーのエコシステムは縮小傾向:現時点で、LTOコンソーシアムに参加し、新しいLTOテクノロジーを開発しているのは、IBM、HPエンタープライズ、クアンタムの3社のみです。そして、LTOドライブの製造はIBMが担う一方で、媒体を製造しているのは富士フイルムとソニーのみです。2

アーカイブ用途以外で、テープが今でもクラウドやHPCデータセンターで使用されているもう1つの理由は、その電力消費効率と寿命です。基本的に、テープは取り外されているときは電力をまったく消費せず、寿命は10年超に及びます。

HDDストレージソリューション

HDDもまた、よりニッチな市場に追いやられています。テープと同様に、ディスクにも同じような問題が生じています。これらの問題は、スピンドル、プラッター、モーターなどの可動部品に大きく関係しています。HDDではインターフェースすら課題となっています。

  • ディスクアクセス方法とインターフェースのイノベーションが遅れている:ディスク転送プロトコルは、ファイバチャネル(FC)、AT Attachment(ATA)、パラレルATA(PATA)、シリアルATA(SATA)、そしてシリアルアタッチドSCSI(SAS)へと変遷してきました。しかし、AIインターフェースとアクセス方法の技術革新の多くは、ディスクを素通りしています。ディスクの持続的なスループットは現在、約260 MB/秒です。3
  • ディスク容量の増大には課題がある:回転式ディスク媒体の場合、ストレージ容量と密度を向上させる唯一の方法は、面あたりの、1インチあたりトラック数(TPI)を増やすことです。MAMR(マイクロ波アシスト磁気記録)ヘッド、HAMR(熱アシスト磁気記録)ヘッド、そしてePMR(エネルギーアシスト垂直磁気記録)媒体は、現時点で、未来のテクノロジーです。現在出荷されている法人向けHDDは、TDMR(2次元磁気記録)とPMR媒体を使用しています。また、従来型磁気記録方式とシングル磁気記録方式、CMRとSMRという違いもあります。最新の14TBのUltrastar DC HC530データセンター(CMR)向けディスクドライブは、904 Gbpi2の面密度をサポートしています。4
  • ディスクテクノロジーのエコシステムは縮小傾向:ここでも、テープと同様に、次のシーゲイト、ウェスタン・デジタル、東芝といった大手3社のみが法人向けディスクドライブを製造しています。 

HDDは依然として大量に出荷され、今後もしばらくは出荷が続くと思われますが、テープと同様、これらはアクティブなストレージではなく、主にアーカイブを必要とする、EBからYBのデータを持つハイパースケーラーやその他の顧客が主なターゲットになります。

SSDによるストレージソリューション

可動部品のないSSDはデータストレージの未来です。

SSDとフラッシュテクノロジー市場はギアをシフトさせて、全般的に活況を呈しています。なぜでしょうか?

  • 新しいAI低レイテンシーアクセス方式とインターフェースプロトコルはSSDがターゲット:SSDの基盤となる媒体は半導体テクノロジーであるため、アクセスは電子速度を実現し、応答時間はマイクロ秒単位です。SSDの持続的なスループットは、一般的に3GB/秒から4GB/秒以上です。SSDのスループットは、フラッシュICの並列性、1パッケージ内のフラッシュICの数、そしてSSD内のフラッシュパッケージの数で決まります。これにより、HDDやテープよりも遙かに容易にドライブのスループットを向上させることが可能です。パッケージについての詳細は、当社の次の記事をご覧ください: How Solidigm Drives the Foundation of Innovation in SSD Packaging Technology(SoldigmはSSDパッケージングテクノロジーのイノベーションの基盤を推進)

  • SSD容量の増大には課題があるものの、克服可能:SSDの物理容量を増やすには、媒体の拡張、パッケージの拡張、そしてセルあたりのビット数の拡張という3つの方法があります。初期のSSDはシングル(1)レベルセル(SLC)を使用していました。現在では、トリプル(3)レベルセル(TLC)とクアッド(4)レベルセル(QLC)デバイスが登場しています。現在、フラッシュのベンダーは、ダイあたり最大200フラッシュレイヤー、あるいはそれ以上のフラッシュレイヤーを積層したデバイス(3D NAND)を出荷しています。あらゆるスケールリングを考慮すると、フラッシュのGbpi2を確定するのは困難ですが、SDDの場合は通常、15Gb/mm2(~9,600 Gbpi2以上です。また、前述したように、フラッシュでは1パッケージあたり複数のICが提供される場合があります。Solidigm™ D5-P5336 QLC SSD122.88TBの物理ストレージ容量をサポートしています。 

  • SDDエコシステムは拡大中:NANDフラッシュは半導体をベースとしており、より多くの企業が先進的半導体テクノロジーの進歩に取り組むことが可能で、SSDエコシステムの少なくとも一部を牽引しています。主要ベンダーは5社あり、増加傾向にあります。サポート組織のエコシステムも拡大しています。 

あらゆるストレージ媒体のなかで、SSDは最速のアクセス時間(マイクロ秒)、最も大きな総容量/Gbpi2、ドライブあたり>4GB/秒という最高のスループット、ストレージあたり最も低い電力コスト(TB/W)を実現し、テクノロジーエコシステムは急速に拡大しているため、SSDが今日のIT市場を席捲しているのも不思議ではありません。 

ITアプリケーションのワークロードは変化している

アプリケーションがITストレージ媒体の採用を推進する主な要因の1つであることを認識することが重要です。データセンターにテープが採用されない理由の1つは、アプリケーションが進化してランダムアクセスメモリ(RAM)を使うようになったからです。このシステムの登場前には、ユーザーはバッチイン/バッチアウトを実行する必要があり、それによってシーケンシャルアクセスが行われていました。ランダムアクセスが必要になったことで、HDDがストレージの主な選択肢となる機会が訪れました。このように、法人向けアプリケーションとそのアクセスパターンの変化は、ITストレージ媒体の採用に極めて大きな影響を与えます。

現在、法人向けITアプリケーションに最も大きな変化をもたらしているのはAIです。この10年間で出現したAIは、多くの企業を驚かせましたが、現在ではAIの導入が全速力で進んでいます。 

AIワークロードとデータストレージ

しかし、法人向けアプリケーションの変化を推進しているのは、AIの導入だけではありません。5 

鍵となる要因には以下のようなものがあります。

  • 新しいノーコード(no-code)、ローコード(low-code)、AIアシスタントコードが毎日のように登場しています。こうした新しいアプリケーションがスムーズに機能するには、高性能のストレージ、ネットワーキング、処理インフラストラクチャが必要です。 
  • ランサムウェアやサイバーセキュリティにより、ITは事業継続性と災害復旧を新たな信条として受け入れざるを得なくなっています。 
  • IoTアプリケーションエッジコンピューティングの出現とともに急速に成長しています。しかし、一部のIoTシステムでは、エネルギーとフットプリント/専有スペースの制約が深刻な課題となっています。低消費電力、大容量のSSDストレージは、オンボードデータを必要とするIoTアプリケーションに最適です。 
  • ユーザー応答時間を短縮するため、プログレッシブウェブアプリケーションが開発されています。ただし、ユーザーに低レイテンシーの応答を提供するため、応答力が高く、高性能で拡張性の高いインフラストラクチャも必要になります。 

こうしたトレンドに応えることのできる、低消費電力で、高速、大容量のSSDストレージを持つことが、これまで以上に重要になっています。

まとめ

データセンターでは、ストレージ媒体の移行は頻繁に発生しません。傾向を予測するのは難しいですが、注意深く観察すれば傾向を見極めることができます。 

SSDは数十年にわたり存在してきました。しかし、アプリケーションのアクセスパターンに重点を置くこれまでの取り組みとは異なり、SSDのストレージ媒体では、エンタープライズAIのアクセスをSSDと一致する方法/インターフェースプロトコルに合わせてカスタマイズできるので、HDDは大きく後れを取っています。そのうえ、SSDの物理容量はその他すべてのストレージ媒体をはるかに上回り、消費電力も低いことから、SSDはAIを導入する最先端の企業に選ばれるストレージ媒体として急速に普及しています。 

消滅したと宣言された後も、テープは50年以上にわたり使用され続けています。HDDもまだ存続していますが、業界はこれをアーカイブ用途という生命維持装置につける方向で準備を整えています。SSDは、特に企業がデータセンターのワークロードにAIを組み込む傾向が広がるなか、企業レベルで加速するアプリケーションの変化に対応できる唯一のストレージ媒体ソリューションです。 


著者紹介

Scott Shadley(スコット・シャドレー)は、Solidigm(ソリダイム)のリーダーシップ・ナラティブ・ディレクター兼エバンジェリストであり、計算ストレージ、ストレージベースのAI、ポスト量子暗号を含む新しいストレージ技術の採用を促進する取り組みに注力しています。スコットは半導体とストレージ分野で25年以上の経験を持ち、エンジニアリングと顧客重視の役割の両方で重要な役割を果たしてきました。